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モモの音楽日記CD・教材紹介


 
 院生たちの演奏会・その8 11.10.4

 中国に行くと、毎回山ほどの楽譜やCD、DVDといった資料を買い込んで帰ります。
 
 資料類は「また今度来た時に買おう」なんて思っていると二度と出会えないことも多く、見つけたらその場で買うようにしています。逆に高価な香港レーベルで買ったCDが、時間を経て廉価版(しかも三枚組とかだったりする)で売っていて悔しい思いをすることも。
 
 まあ廉価版(これって堂々と本屋で売ってるけど海賊版なのでは?)は演奏者の名前ほかライナーノートが付いていない物がほとんどですから、資料としての価値は半減しますけれどね。
 
 さて院生たちの演奏会レポも全て終わりましたし、今回買った中からいくつか個人的に気にいったCDをご紹介することにします。

 ジャンルが偏っていますがお許しください(笑)。

 
♪《雨後庭院》上海市長寧区少年宮柳琴楽団♪


    
 柳琴をメインに中阮、大阮にチェロやベース、打楽器を加えた楽団員は総勢50名近く。長寧区の少年宮だけで柳琴をやっている子がそんなにいるんだろうか。
 
 少年宮は中国のお子様たちの課外活動の場。アマチュアのお子様の集まりです。でも学生のブラバンが時々大人のプロ達より上手かったりするように、少年宮の楽団の演奏、案外あなどれません。
 
 中国の楽団はプロでもリズムの頭が揃わないことが多いですし、ミスが目立つ演奏でも平気でCD化したりしますね。このCDはミスも少なく、リズムも時々速くなったりするものの、ソロ部分の演奏も含め、かなり安定感が高いです。
 
 また強弱がはっきりしていて、さすがに50名のMAX時の迫力は圧倒的。息、すごく合ってます。メンバーには小学生も多く、低学年としか思えない子もちらほらいるというのに。
 
 夏飛雲が芸術顧問というだけでハズレはないでしょうが、この統制のとれた演奏は、団長である柳琴奏者の曹慧萍の日頃の指導のたまものだと思われます。
 
 収録曲はほとんどが耳馴染みのよい、有名曲ばかり。でも「チャールダッシュ」とか「モスクワの郊外の夜」とか「春天」とか外国曲が多いですね。やっぱり弾撥楽器にはこんな曲の方が合うのかな。
 
 うちのアンサンブルもこれだけ弾けたらいいのになあ。とはいえ、うちはリズムもバラバラだし強弱なんてほとんど存在しないし、これは指導をしている私の責任ですね。とりあえずは20年後の目標、ということで気長にやっていこうっと。
 
♪《広陵散》劉星♪


    
    
 莫于山路五十号の半度雨棚で楽譜と共に手に入れたアルバム。収録曲は全て、古琴の曲を中阮に移植したものです。阮はもともと古琴と合奏することの多い楽器でしたから、中阮で古琴曲を、というのは相性が良いのかもしれませんね。
 
 古琴と違い阮はフレットがありますから、当然古琴と同じようには弾けません。にもかかわらず、フレットが無いかの如く滑音や打音もなめらかに入っていますし、古琴のあの独特のステップ感がうまく再現されています。また音の色や質感を自在にコントロールできているのも、さすが。
 
 つねづね「優秀な作品が楽器の盛衰と伝承を左右するのだ」と、阮には優秀な作品があまりに少ない事を嘆いている劉星だけあって、よく難易度の高い技術がさりげなく紛れ込ませてあったり。すごい事を余裕で演奏しているように見せるところが、彼が彼たるゆえんでしょう。
 
 お馴染みの「酒狂」では途中で自作の「雲南回憶」を思わせるフレーズが挿入されているのも、楽しいところ。私が気が付いていないだけで、他にも遊びが満載していそう。時間をかけて、何度でも味わえるアルバムです。

  ♪《中国民族室内楽経典》金豈組合♪
 

    
  
 基本的に柳琴と阮がメインで、管楽器や二胡、古箏、打楽器が各一人ずつ加わった構成のアンサンブル。うちの呉強老師が芸術指導にあたっています。
 
 メンバーは老師の学生の中でも特に生え抜きばかり。完璧主義の老師の指導を受け、演奏もハンパでないレベルで聴かせてくれます。
 
 曲のほとんどは徐堅強や何訓田といった上音系列の作曲家が提供した現代曲。現代曲って苦手な私ですが、王建民の「阿哩哩」や姜瑩の「絲路」などをはじめ、案外聴きやすい曲が並んでいます。
 
 言い方を変えると、聴きやすくするのも聴きにくくするのも、すべては指揮者や奏者の腕次第。いかに自分の思想を盛り込むか、ですよね。
 
 あと「熊蜂の飛行」を四分音符=190強で、しかも十数人が一糸乱れずって・・。擦弦楽器ならともかく、弾撥楽器ですよ。例えばバイオリンだと技術的にさして難しくないと思うけど、弾撥楽器のギターでそれだけ弾ける人が世界に何人いるでしょうか?
 
 すごいを通り越して、おそろしい。

♪《四大名著》中国廣播民族楽団♪


    
 柳琴や阮ばかり紹介したので、最後に楽団演奏を。
 
 「四大名著」というと、「三国志演義」「水滸伝」「西遊記」「紅楼夢」。これらはもちろん中国で映像化されており、それぞれの主題歌や挿入歌も今なお人々に愛されています。このCDはそれらの曲を再録音(たぶん昔のもこの楽団の演奏ですよね?)したもの。
 
 昔は中国で楽団といえば、ここ廣播(=放送)民族楽団か中央民族楽団、上海民族楽団あたりが超有名どころ。が最近は地方の楽団も自分達の特色を出しつつ着実にレベルアップしていて、観客としては嬉しいですね。
 
 打楽器で始まるイントロ、徐々に楽器が加わり盛り上がった(柳琴やたら目立ちます♪)ところで、「滾滾長江東逝水・・」と始まる男声の朗々とした独唱。うーん、ええですなあこの感じ。この一種もったいぶり感! 首を斜め上45度に向け、手を差し上げる姿が目に浮かぶようです。
 
 個人的には水滸伝の「好漢歌」が大好きなので、思わず一緒に歌い(歌詞知らないですが)そうになります。趙季平の曲はやっぱいいですね〜。演奏で墜胡が使われていましたが、この奏者にはガハハ感というか大らかさが欠けていてイマイチ。最近の人って皆こんなだけど。
 
 廣播民族楽団というとここずっと彭家鵬が常任指揮をしていて、アップテンポでキラキラなイメージを持っていたのですが、このCDではずいぶん重厚な感じ。見ると指揮は範濤という人でした。ひとつひとつの楽器の音をしっかり丁寧に出していて、私は好きですね。
 
 三国から水滸、西遊記の勇ましい曲からコミカルな曲、紅楼夢のしっとりした曲まで。作られたのは二十年くらい前のはずですが、ちっとも色あせていません。
 
 ふと二十年前の自分を振り返ると、中国音楽どころか中国への興味すら無かった事を思い出しました。現在こんな風に中国音楽にどっぷり浸かっているなんて、誰に想像できたでしょうか。
 
 私が上海に留学したのは2001年の9月。そう、とうとう十年の歳月が経ってしまいました。相変わらず日々をただ無駄に過ごしていてはダメですね。頑張らなくちゃ!!
 

 教材は色色あれど 07.5.31

 インターネットが普及した現在、日本に居ながらにして外国の楽譜や教本、CDといった資料も簡単に手に入れられるようになり、また日本でも中国楽器の本が次々と(まあ二胡だけですが・・)出版され、本当に便利になったなあと思います。

 私が中国音楽を始めた頃は、当然ながら日本ではそういった資料類がなく、かろうじてCDだけは時々輸入盤を扱う店で見かける事があるくらいでした。

 仕方ないので直接中国へ行き、その度に本屋やレコード店を探し、せっせと買い集めていたものです。その頃は中国はCDもまだ少なくて、特に民楽はカセットテープが主流でした。そういや呉強老師の演奏との衝撃の出会いもカセットテープだったっけな・・。

 さて、最近の中国では音楽の考級(昇級試験)が盛んになっており、結果が学校の成績にも関係してくるらしく、出版社もあの手この手で関連の教材を大量に作っています。考級に使われる楽譜はもちろん、傾向と対策本、そしてVCDなどの映像もの等々。

 特にこのVCD(今はDVDも多いですね)、確かに便利。本で説明するだけでは理解しにくかった事や、CDを聴いて「どうやってこの音を出しているんだろう?」と長年疑問に感じていた事柄も、一目瞭然です。

 我々外国人にとっても、言葉ができなくとも見れば大体どう演奏しているかわかりますものね。いやはや、ホントに便利な世の中になったもんです。

 特に考級に使われる楽譜と内容が対応しているVCD、これはとても参考になります。一級の簡単な曲から十級の難易度が高い曲まで(注: 中国では日本と逆で、一級が初級で数が大きくなるに従って難しくなります)、実際の演奏(口パクやお子ちゃまに演奏させてるのも多いですけどね〜)に加え専門家の解説までついており、とても参考になります。


  最近多く出てきた書籍やDVDなどの教材

 とはいえ、解説にはもちろん字幕がついていないので、専門家がせっかく色々なポイントを示してくれているのに、言葉がわからないと理解できず、勿体無いですね。私も昔は全然わからなかったけれど、改めて今見ると「おお〜なかなか良いヒントくれているなぁ」だとか「なるほど、演奏家はこんな考えでもって処理をしてるんだな」というのも発見できて面白いですね。逆に内容のない解説をする専門家もいて、がっくり来る事もしばしばですが・・。

 あと、考級の教材でよくある困ったこと。それは、当然対応しているはずの楽譜とCDまたはVCD中の演奏が違っていたりすることです。民楽では演奏者イコール第ニ作曲者みたいな考えがあって、楽譜どおりに弾かない人も多いのですよね。指法が違っているのはまだいいとして、楽譜がかなり違っていても平気。

 以前Y老師が、生徒(まだ小さな子供)に新しい曲を宿題に出した時のこと。生徒はVCDを見たところ、後半部が楽譜と全然違っていたのでどうやって弾いたらよいかわからず、結局次のレッスンで後半部を弾いてこれなかったそうです。その曲は作曲者が大幅に書き直した事があり、掲載された楽譜とVCDの演奏とでは版本(バージョン)が違うのです。

 しかしVCDすなわち楽譜の模範演奏なのだから、楽譜とちがっていたら模範になりませんよねえ。楽譜にその版本を採用したのなら、模範演奏もそれに準拠すべきではないでしょうか。そのへんがいい加減というか、なんというか・・。

 そんなわけで教材も色々あれど玉石混交で、おかしなモノも多くて・・書籍類は店頭で見て確認できるのでまだいいのですが、CDやVCDなどはそれができず、後で「しまったぁ〜!! カネ返せ〜!!」と叫ぶ事もしょっちゅうです。

 CDなどは香港や台湾で出版された物は比較的きちんとしているので、高価であっても安心できます。が、大陸の廉価版CDといったら・・。もちろんちゃんとした物も多いのですが、困るのは最近よく見かける「過去に出版されたCDからの寄せ集め」モノ。

 これは色んな音源から少しずつ取り出して編集されていて、伴奏もちゃんとした楽団かと思うと突然安っぽいMIDIが入っていたりで一貫性がなく、録音レベルもバラバラで聴いていてとても疲れます。それでも中の一曲だけを聴きたいが為に、ゴミ箱行きにせず残しておいてお荷物が増えるのです・・あーあ。

 こんなこともありました。ある香港のレーベルのCDと内容がそっくり同じ廉価版を発見し、四分の一の値段で買えた♪と喜んで聴いてみると、何だかおかしい。このCD、少数民族の民歌の編曲集だったのですが、どうやらジャケットにある曲のタイトルの順番がデタラメで、例えば1番目に書かれているのに実際には7曲目に入っていたりと、ほとんどの内容が食い違っているのです。

 たまたま知っている曲があったからデタラメが判明したのですが、知らない人だと誤った情報をそのまま信じてしまいますよね。実をいうと同じような間違いが他のCDでも判明したので、以降大陸版のCDは最初から疑ってかかることにし、ちゃんと自分の耳と知識で判断するようにしています。

 信用できないのはCDばかりではありません。書店で中国の民族楽器に関する解説書を見かけて、それは写真も豊富で装丁にもとてもお金をかけている感じでしたので読んでみると、柳琴の項目に月琴の写真が載っていたり、楽器の解説もかなりいい加減なものでした。腹が立つというより、何だか情けないですよねこんなの見ると・・。

 情けないといえば・・・。二胡や笛、古筝等の楽器は早くから教学VCDが出版されているのに、私の専門である柳琴や阮は元々資料も少なく、教学VCDの出版を待ちわびていました。そこへ、やっと! お初(たぶん)のVCD付きの教本が出たのです。嬉しくて早速買い求め、期待を胸にVCDを再生し・・・てみて、「なんじゃこりゃぁ〜」。

 解説者はとても専門家とはいえないレベルで、どうみてもギター弾きが転向しました、という感じの素人くさいおっちゃん。ピックで弾く奏法を解説しておきながら、難しい曲になると別の若い女性が模範演奏をするのですが、こっちは付け爪で弾く奏法。で、教本の方は付け爪中心で解説してあるのです。変なの〜・・。

 こんな低いレベルの教本を見たら、誰だって「ああ、この楽器ってこの程度のものなんだな」と勘違いしてしまうじゃありませんか!! 出版社も何でこんな人に教材作らせるかな〜もう。最近手に入れた、別の人のVCD付き教本もこれよりはマシだけれど、奏法の解説だけで曲の演奏が入っていないし。阮に関して今のところマトモなVCDは劉波のだけですね・・。そのうち出版されるであろう、各音楽学院の阮考級VCDに期待する事にしましょう。

 これは中国に限りませんが、公に出版されているから、権威ある人が言っているから、といってそれをそのまま盲目的に信じるのではなく、いろんな資料を見て総合的に判断することが大切ですね。自戒の意味も込めて・・・。

 【おすすめCD】 03.9.12
 SARSの影響で、上海ではずっと長い間演奏会だのイベントが催行中止となり、ここのところずっと音楽関係不毛の時期でありました。私自身もこの1年、外で生活するのに一生懸命で、日記にはほとんど音楽に関する事を書けておらず、「音楽留学日記」ならぬ「留学生活日記」と化してしまい、反省しきりです。

 これからは、今までの外での生活から抜け出し、学校に再び戻る事となりましたので、本来の「音楽留学日記」らしく、音楽関係の内容にもっと触れていきたいと思っています。(なんてエラそーに宣言してますが、いつまでこの姿勢が続くことやら)。

 音楽関係・・といっても、もともと上海は北京に比べ、民楽系の演奏会が極端に少ないので、レポートも書けません。ので、まずは上海で購入したオススメCDのことなんぞ書く事にします。

「黒土歌」 馮少先&高雄市立国楽団 (雨果製作有限公司)

 絞り出すような独白から始まる、三弦弾唱「黒土歌」。シ、シブすぎる!! 馮少先というと、まず浮かぶのは月琴。中国を代表する演奏家としてだけでなく、自ら作曲もし、たくさんの名作を残しています。月琴と柳琴は奏法等も似ていますから、月琴の作品を柳琴で演奏する事も多く、自然と彼の作品もよく目にします。

 しかも彼の演奏する楽器は月琴だけにとどまらず、このCDでは他に三弦、板胡、中阮、打楽器などのソロも披露しており、各曲、各楽器それぞれにいい味出してます。

 そして馮少先といえば切り離して考えられないのが劉錫津作品。このCD中の組曲2作品とも、彼の作品です。「北方民族生活素描」は柳琴でもよく演奏されてて耳に馴染んでいますが(うち「冬猟」や「漁歌」は実際習ったからよけい必死で聴いてしまうんです)、あらためて聞くとまた違った趣があります。柳琴よりも月琴の方が素朴な、土臭い音がするので、「生活素描」にふさわしい気がしますね。
 もう一方の組曲、「満族組曲」。4つの楽章から成り、各章それぞれ違う楽器をソロとしているせいか、「この味あるソロを聴いてちょーだい!」といわんばかりに、もう目いっぱい独奏部分が用意されていて、各楽器の持ち味を最大限に活かした作りになっています。

 特に第3楽章の「黙克納」、このタイトルは満族の「口弦(口琴といったほうがいいかな)」の意味なんだそうで、ハーモニクスや推拉を多用して、月琴で口弦の音色を模倣しているのですが、月琴でこんなに柔らかく豊かな滑音や吟音がだせるとは。いやあ、恐れいりました。ほんとうに楽器の事を知り尽した人ならでは。

 中阮ソロの「山坡羊」。河南箏曲を移植した曲だそうですが、河南箏曲って男っぽくてとてもカッコいいですよねー。弾く音に少し金属的な雑音が混じっているのは、弦をはじく力がかなり強いのかなあ、と想像されます(・・と思います。わかんないけど)。また右手の力に負けず、フレットを押さえる左手が、まるで吸い付いているみたいに滑っていってます。決してスマートな演奏ではないのだけど、緩急の自在さがとても味があっていい。

 共演の高雄市立国楽団、一部擦弦楽器の音ズレが気になったものの、打楽器パートがシャープな感じで気に入ってます。少なくとも打楽器に関しては上海の某民族楽団よりは良い人材が揃ってそうです・・・。

 「緑州」

 王艶 (上海龍韵音楽製作公司/上海海文音像出版社)

 上海民族楽団の柳琴奏者、王艶の初ソロアルバム。彼女の名前は、日記中のコンサートレポートにも度々登場するので、皆様お馴染み(になって下されば嬉しいなぁ)だと思います。彼女の最大の特徴は、透明感あふれる柔らかい音質。このアルバムでは、それを十分に味わう事が出来ます。

 馮少先のアルバムにも収録されていた、「北方民族生活素描」からスタート。シルクロードの情景豊かな「緑州」、そして「漁郷新歌」、雲南の「放馬山歌」と続き、杜甫の詩を題材にした「剣器」。・・・とずっと聴いていて、選曲は悪くないんだけど、何となく「華」がないんだなあ。音色はとっても美しいし、抒情的なんだけど、いまいち豊かさに欠けるんです。

 ま、もちろんナマで聴くのとCDで聴くのはすごく差があるし、特に柳琴は高音楽器だし音量がそれほど大きくないので、録音状態によっても良し悪しがすごく変わってくるのですけれど(実際CDを聴いていて、伴奏の音量がやたらでかくてバランスの悪い部分もありましたし)。
 「剣器」という曲は、うちの呉強先生の十八番。実際、呉強先生のはホントにかっこよくて、かつ先生の激しい性格にぴったりなのです。他の人が弾くのを聴いても、何となく激情が足りないような気が・・。王艶小姐もかなり頑張って激しく弾いてると思うのだけど、あの疾走感が欲しいところなのに、何となくおとなしい。

 常々、彼女を舞台上で見る度、「赤ちゃん体型だな」と思ってはいましたが(顔はヤンキーなのに)、アルバムの写真を見ると、指なんかもぷっくりしてて、これがあの柔らかい音を生み出すんだなあ、と再確認。普通なら硬質になりがちな弾挑(ええと、ダウンアップのことです)のふわふわ感は、彼女ならではのもの。ただ、トレモロは起伏に欠けていて、あまり唱ってない感じ。普通なら弾挑の方が硬くなりがちなんだけどな・・。

 何占豪の「花」。・・最近民楽ではこの人の曲を演奏することが多いような。試験の時も、古箏も中阮も柳琴も彼の作品を弾いてて、「なぜ?」と不思議に思いました。実は・・個人的にこの人の作品、あまり好きではないので・・。だって途中必ずクサくて大袈裟なメロディーがあらわれて、聴いててこっぱずかしいんだもん。なおかつ、この人は単旋律で作曲してるな、という印象。たぶんバイオリンとかの西洋管弦楽なら問題ないんだろうけど、弾撥楽器などの和音を奏でる楽器に関しては、全然特徴を活かしきれていない感じがします。その点、このCDでも「緑州」「放馬山歌」といった作品を提供している顧冠仁、この人のはちゃんと楽器を理解した上で作曲しているな、というのがよく伝わってきて、聴いてて気持ち良いです。

 この「花」という曲も、トレモロと弾挑の繰り返しで、曲としてはちっとも面白くない。逆に奏者としては弾きこなしにくい、表現の難しい曲なんだろうと思います。実際、彼女ももうひとつ消化不良な感じです。たぶん、指揮は何占豪本人だと思うのですが、指揮が悪いのか楽隊が悪いのか王艶小姐の演奏が悪いのか、リズムといい曲の構成といいソロと伴奏が合ってなくて、かーなりめちゃくちゃ。

 最後は「火把節恋歌」。最初、なんでこの小曲をトリに持って来たのか意図がわかりませんでしたが、聴いて納得。彼女の弾挑の美しさが最大限に発揮され、彼女のあまり密度の高くないトレモロも、この雲南風味の曲では素朴さに転んでいてちょうどぴったり。でもって、この曲の伴奏の管弦楽団がいい味出してるのです。たぶん、彼女もこの伴奏によって歌心が更に引き出されたんだろうな、そんな感じがしました。

「NEW  ERA〜新時代」
 
理査徳・克莱徳曼&中国広播民族楽団 (上海歩昇音楽文化
伝播公司)

 うーん、広播楽団のは久々だなあ、と懐かしさだけで内容をよく見ずに買ってしまいました。ま、ピアノと共演してるみたいだからどーせポップス系、アレンジも電子系なんだろな、とあまり期待していませんでしたし。

 私自身あまり民族楽器+電子音楽という組み合わせが好きではなく、民楽のCDを買った時も、伴奏に電子音楽が流れるのを聴くと、サーッと血の気が引き「しまったぁぁ!! またこんなカスCDを買ってしまったぁぁ!!」と叫んでしまうクチです。特に中国のって、あまりに安っぽい、ワンパターンな電子音伴奏が多いんですもん。

 家に帰り、開けてびっくり。ピアノは・・なんとあのリチャード・クレイダーマンだったのでした。漢字見ただけではピンと来なかったのです。う、うーむ、確かに面白い組み合わせではあるかも。

 でもやっぱり内容は・・西洋と東洋の融合という意図からか、曲はほとんどが中国の民歌などを再アレンジし直しているんだけど、全編クラブMIXという感じのばかり。新曲もふつーのポップスにちょっと民族楽器を使ってるっていう程度で、特に新鮮なアレンジでもないし、日本でもよく聴く手合いのモノ。こんなんで「東西の音楽が手を取り合い、"新時代"を創造する」なーんて言うなー! 手を取り合ってても、歩み寄りがあんまりないではありませんか。

 二胡や管楽器類は単旋律なので、比較的合わせやすい楽器だとは思いますし、西洋のスタッフもアレンジしやすいのでしょう、さほど違和感はありません。・・といっても例えば笛の息継ぎがやたらうるさかったり、二胡とピアノが微妙に音の高さが違って気持ち悪い、なんてのはありますがまだマシ。

 弾撥楽器はまるでお愛想ナシで、ピアノと伴奏の出来上がったトラックに、淡々と義務的に音をのせているだけ、という感じで、感情の動き、メリハリだとかいったものが、まったく感じられません。揚琴は比較的うまく溶け込んでいたけれど、琵琶なんて「やる気あんの?」と言いたくなるくらいぶっきらぼう弾き。柳琴も使われているらしいのですが、高音楽器の特徴を活かしきれておらず、無くても一緒じゃないかと思いました。

 民族楽器の合奏を聴いたり、実際自分で弾いたりする際には、いつも「この作曲者(あるいは編曲者)は一体民族楽器の事をどう理解しているのか?」と考えます。人によっては管楽器や擦弦楽器はうまく使えるけれど、弾撥楽器に関しては配器がすごく下手だったりします。そういう曲は弾いててもちっとも面白くない。逆に楽器を効果的に使っている作品に出会うと、とてもワクワクします。

 ただ、「蝉之歌」、この一曲はけっこう好きです。物売り等の話声に歌声がかぶさってゆき、人声による蝉の鳴き声の模倣など、雲南独特の不思議な音の世界に、ピアノと楽器がさりげなーく溶け込んでいく。この一曲は不自然さがなくて、なおかつキャッチャーなメロディで聴きやすい。

 最後には広播楽団の十八番、「瑶族舞曲」が収録されていて、ここでやっとホッと一息つけました。・・とはいえ、実を言うと私はあまり広播楽団の「瑶族」は早くてスマートすぎてあまり好きではないのですけれど。このスタイルは彭修文以来の伝統なのでしょうが、個人的にはもっとゆったりした方が好みなんだけどな。まあでも、やっぱりアコースティックが一番ですね。打ち込み系は聴いてて疲れますわ・・。

 このCDには2曲入りのボーナスVCDが付いています。1曲は「離唱」。R・クレイダーマンと、二胡を弾く女性のセリフなんかが曲中挿入されてて、この女性・・誰だろ。姜克美が弾いてるはずなんだけど、彼女こんな顔してたっけ・・?

 もう一曲は前述の「蝉之歌」。これ、映像もいい感じに仕上がってます。雲南の自然と、結婚を祝うお祭りの為に着飾る女性達。色彩の乱舞。いーなあ。きれいだなあ。雲南、行きたいなあ。

 久々に見るR・クレイダーマンは、ずいぶんシワが増えて年をくってはいましたが、やはりあの髪型、そしてにこやかに例の白いピアノの前に座っていました。やっぱりピアノの貴公子はトシをとっても貴公子なのでありました。

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